To be my Grace - XIII

Posted by 美海 * mimi on 11.2014 To be my Grace
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監督とCGさんのところでやり直しさせて欲しいと言うと、どこから?と聞いてくれた。


「 最後の溜息の前あたりからだけでいいと、思うのですが・・・どうですか? 」


ちょっとさっきの荒々しいイライラの感じと、今フェードアウトした時と自分が違うと感じまして・・と付け足す。

監督も、そうかも。と・・・止まって考え出した。
クレオパトラの影像だけのつもりだったのに、シーザー目線の影像も後で入れたいと思っている。目を瞑ってウンウンと何かをイメージしているらしい監督は・・・


「 じゃぁ、もう一パターン。任せてみてもいいですか? 」


その言葉に、宜しくお願いします と言った。




_____ 「 もう一度、途中から入りますよ~。 」


_____ じゃぁ、監督。二人の表情が変わる・・・ノックからですかぁ~?


スタジオ全体に監督とスタッフの声が響いて、将校の声だけの部分を音響が、じゃぁノックからね~と言い、それに合わせて小道具さんがセットに入る。
衣装を脱いで同じ様に上下になって止まっていると、もうさっき撮った映像の中と全く皺も同じ様に、月桂樹とクレオパトラとシーザーの夜着をカメラ前の人と確認しながら置いてゆく。

その体制のまま、メイクさんを呼んでください。と傍の小道具さんに声を掛けた。


なになに?と俺のメイクさんがメイクボックスとバスケットを持って寄って来た。


「 あぁ、メイク直しじゃなくて、それ・・・汗をお願いします。 」


小道具さんが布モノを直しつつだった為、動けない体制でいたので、持っているバスケットに掛けられた霧吹きを視線と顎で差した。


ふふっ。と笑う下の京子。


_____ 敦賀君、どんな風にしたいの?

そう、聞いてくれるプロのメイクさんには・・・


「 薄っすらと滲む様な感じで、ぽたっと垂れたらいいかと・・・」


そう伝えれば、OK おっけ~。と言って、じゃぁカメラが上だって言ってたから・・・と言いながら、背中や首の後ろに軽くシュッシュッして貰っていた。

汗をかかない様に水分調整中なので、この撮影に携わっているキャストは皆、汗をかいていない。
でも、照明の熱が篭るこのスタジオ内。広いといっても人の数も普通に比べると技術さんが多いのでスタッフは汗だくで、ちょっとメタボ気味の監督にはきついんじゃ?って、監督のお好みのSF&CG撮影なので・・・それは置いておく。実はTragic Markerから、暑そうだな。と思っていた事だった。


シュッシュされながら、動かないでね~とメイクさんと小道具さんに言われるので、腕で囲った京子をニコニコ見ていた。
へぇ~っ、本当ですね~。と京子が言ったのは、顔を向けると見ている方向が分かりやすい事。

でしょ?と、微笑んでいると、頭の後ろに掛けられている水滴が、耳の後ろをジワジワ伝って来るのを感じた。シーツが掛かっていた背中の場所まで同じにすると、準備OKで~す。と言ってセットから離れ、間髪入れずに聞こえる・・・




_____ じゃぁ宜しくね。 シーン・・テイク2。よーい・・・


カチッ。






クレオパトラの目を瞑ったまま横を向いた首筋に、キスを落としている時・・・



________ コン、コン


寝室のドアを叩く音が、声を出さずに愛を伝え合っていた二人の静寂の時を止めた。
けれどそれは一瞬で、お互い首元に頬を寄せ合う。

クレオパトラが握っているシーツがもっと強く握られると、彼女は伸ばした足で毛皮を撫でる様に曲げ、膝が高い位置に来ると内側に倒し、その膝でシーザーの腰をシーツの中で撫でる。
その感覚に胸の奥から深く長い、甘い息をゆっくりお互いに吐き出していた。

クレオパトラはシーツから手を離し、シーザーの肩に滑らせながら滲む汗を拭った。

手が離されたシルクのシーツが少しだけシュルっと聞こえる様にシーザーの背中の中ほどまで落ちると、シルクの上に映し出す五彩の煌きが瞬いて、シーザーの背中に滲んでいる汗の一粒一粒の水滴にその輝きを映し出している。

フワフワと浮くような感覚に体が動き背中の小さな水滴は少し大きめの水滴に寄り集まって、
クレオパトラの首元から顔を上げたシーザーの背中を伝って行く。

クレオパトラは目を開けてシーザに微笑みを浮かべながら、両腕を首に回して抱きつくとシーザーの耳の後ろを伝っている汗を親指で拭いながら耳の後ろをゆっくりと撫でた。

自然に目を瞑った二人が唇を重ねると、シーザーの頬をゆっくりと伝ってきた汗は、傍にある黄金の月桂樹の光を受けて金色に輝きながら、唇を重ねているクレオパトラの頬に落ちて その金色の光を失う事無くクレオパトラの頬を伝って落ちた。



_____ シーザー閣下、お休みのところ・・・


二人の空間の向こうから聞こえた声に返答する事無く抱き合っていて、シーザーは聞こえない様に、背中を滑り落ちたシーツをふわっと引っ張って頭まで被せた。

二人の足がシーツからはみ出ると、蒼白い光を篭らせた羊毛の上で二人は足を絡ませ合っている。
被されたシーツは空気を含んで膨らんでいて艶やかな表面に成ると、蒼い月の光を一杯に受けていて、クレオパトラのシーツからはみ出している長い髪にゆれる黄金が、その蒼く仄かに光るシーツに写って、金色の瞬きを乗せていた。

含んだ空気が徐々に抜けてゆき、重なり合った二人の姿が徐々に浮かび、二人の上に輝いていた金色の瞬きは五彩の瞬きに変わって行った。



_____ ファロス島を占領されたようです。


この言葉に二人の動きは止まった。

空気の抜けたシーツの中からクレオパトラの手が伸びて、その手で自分の夜着と黄金の月桂樹の冠を掴むとシーツの中にその手は消えた。


シーザーが両手を着いてシーツの中からガバッっと上体を起こし・・・
けれどその瞳は・・・クレオパトラを見ていなかった。

ただ焦点の定まらない瞳で何も無い空間を見詰めているだけで、そのまま無言で口を閉じたままゴクンと飲み込む様に喉が動いた。


「 これを・・・ 」


クレオパトラは片手で自分の夜着を押さえ身体を隠していて、反対の手に持っている月桂樹の冠を、そっとシーザーの頭に乗せた。

シーザーは、はっと気付いてクレオパトラに視線を戻すと・・・

クレオパトラは空いた片手でシーザーの頭をぐいっと引き寄せ、目を開けたままのシーザーに
唇を重ねた。

頭を抱き寄せていた手で、シーザーの頬を伝う汗を拭い・・・

重ねた唇を離しながら、微かにシーザーに聞こえるだけの声を彼の頬にかけて



「 どうぞ・・・ご無事で・・・」


シーザーの頬を伝う汗を拭っていた手をシーザーの口に当てて押し、シーザーの身体を自分から遠ざけた。


次の瞬間、シーザーは俯いて強く瞼を閉じ長い溜息を吐いた。


ふ ―――・・・


寝台に着いていたシーザーの手は下の羊毛をギュッと握り締め、掴んでいる羊毛が引きちぎれそうなほど握ったその手は震えていた。


シーザーが固く目を閉じたままでいると、シーツからはみ出ている二人の絡まり合っていた足をクレオパトラは解き、足を揃えて寝台の上に座った。

その瞬間、シーザーは手を震わせながら自分の手の平に自分の爪が食い込むほど強く握り締めて・・・


アアァ―――― !


目を硬く閉じたまま真上を向いて、大きな声で叫んでいた。

クレオパトラは驚きもせず、ただ眉間に皺を寄せ何かに耐える様に目を瞑り、両手で夜着を押さえて俯いた・・・

時・・・

シーザーはクレオパトラを両腕で ぎゅうっと強く抱き寄せて、俯いた彼女の首に吸い付いた。


シャラ、シャラ・・シャラ・・・

急に抱き寄せられて身体を振られたクレオパトラの髪が、一度空を舞って羊毛の上に叩き付けられ もう一度跳ねて小さく浮き上がった毛先の黄金が髪の中程の金に当たり、微かな心地よい音を響かせて・・・

その音が消えるとシーザーは、唇を首元から離し顔を背けて、自分の夜着に手を伸ばした。

抱きしめていたクレオパトラに背を向けて夜着に袖を通すと、大きく息を吸い込んで立ち上がり、前を真っ直ぐ見詰め2歩、3歩・・と歩き出した。


それをクレオパトラも見る事無く横を向き、自分の夜着を身体に巻いていた。

クレオパトラが首の後ろで布の端を結ぼうと俯いた時、両手に触れていた自分の黒髪の感触が急に無くなって・・・

顔を上げると後ろから抱きしめられ、キスマークが残されたその首に、自分の髪を纏めてかけられた。


シーザーは後ろから淡紅色のクレオパトラの頬に、ちゅっと音を残して優しくキスをすると
自分の頭の上に乗せられた黄金の月桂樹の冠を、クレオパトラの頭に乗せた。

唇が頬に触れていて、耳元にシーザーの落ち着いた声が僅かに聞こえた。


「 そなたの元へ必ず・・・

  ・・・いや・・・」


言いかけて止めたシーザーは、クレオパトラの頭を大きな手で胸に抱き寄せて目を瞑る。
クレオパトラは、彼の心音を聞きながら胸の中からも聞こえる声に目を閉じた。


「 君の元に必ず帰ってくる・・・

  ここに、この場所に必ず帰ってくると・・誓う。 」


クレオパトラは閉じた瞼の中に涙が溢れてくるのを感じていたが、その瞼を開けてシーザーに顔を向けた。


「 私に誓ってくれるのなら・・・

 ・・・誓いのキスを・・・」


二人は目を閉じて唇を重ねると、クレオパトラの涙の溜まった瞳から ぽたっと抱きしめられているシーザーの腕に涙が落ちた。

目を瞑ったままでいると・・・

唇が離れる感覚と共に、抱きしめられていた腕の感覚が緩んで消えて・・・

シーザーの足音が遠ざかりその音も消えると・・・パタッ、パタッという音が代わりに聞こえてくる。

クレオパトラは自分の大粒の涙が、二人で包まっていたシーツの上に落ちるその音を聞いていた。シーツを両手で胸に抱きしめると、彼の香りがふわっと広がって涙が溢れてくる。


人を愛する事がこんなにも苦しいものなのかと心が震える感覚に、シーツを抱きしめている手も、腕も、肩も・・・そして背中全体が、心と同じ様に震えてきて、いつの間にか・・・

ぐすっ、ぐすっ、と小さな声を上げて泣いていた。

シーツから手を離し彼の残したキスマークに手を当てると、纏められた自分の髪が揺れて音をたてていた。
涙の溜まった目を開けると、目の前にある大きな満月は霞んでよく見えなかった。

ただこの蒼白い空間に、シャラッと動き音を立てて揺れている自分の髪が、満月の光を浴びて
ぼんやりとしか見えない、目に溜まっている涙に金色の光を輝かせて見える・・けど・・・

ぽたっ・・・とその金色の涙は落ちてしまう。

その瞬間クレオパトラは立ち上がり、瞬きをして目に溜まった涙を落とすと
王宮の中を抜けていく彼の後姿を見詰め、見送っていた。


荒々しく剣を振り下ろした彼が、自分を優しく抱きしめてくれてた同じ人なのだと・・・

その二面を見ると思い出す・・・

自分たちの結いの儀とは、国と国の和平の統合の為と、心と心の繋がりとの二つ。

自分の初めて愛した人は、敵であるならば人に血を流させる事を何とも思わない人で、
でも・・・

自然の中にある命を自らが手に掛ける事は出来ない人で、自分の大好きなバラ園に咲く紅薔薇の切花を迎賓館の中に飾りたがらない彼が、短く傍で枯れ散らせるのであれば、長くその命の続く限り自分が見に出向くと云う、心の優しい人であると、薔薇を切れなかった彼を見ていた。


イシス神殿の前に彼が来ると、二人で誓い合った時を思い出す。

クレオパトラは頭に乗せられている彼の月桂樹の冠を取って胸に抱いた。
シーザーの過ぎて行く姿を見届けながら思う・・・


貴方をこうして胸の中に抱きしめたまま

貴方の無事をお祈り申し上げると共に・・・

 その神殿の女神として、貴方をこの心に忘れぬまま、

・・・貴方を見守っています・・・ 



「 だから、だから・・・

どうか必ず直ぐに帰ってきて 」




クレオパトラは瞬きをすると涙はもう落ちてこなかった。
愛しい人の命を懸けて出向く姿を目と脳裏に焼き付けたいと、

もし帰らぬ人と成ってしまったら・・・

自分から見えなくなる最後まで見続けていたいと思っていたから・・・


シーザーの姿が見えなくなっても見詰めたままでいた空には、さっきは自分の目に溜まった涙で霞んでいた満月も、今ははっきりと見る事が出来る。

その形と色が・・・

手にしている愛しい人の象徴と同じで ・・・――――






京子が演技を続ける中、カットが掛からないのは当たり前。
セットからフェードアウトしてから、カメラの入らない場所でずっと見ていた。

音を立て無い様に歩くことも無く立ち止まっていて、髪に残っていた水滴が首の後ろを一滴だけ伝っていたので手で拭い、そのままその手で髪を後ろに撫でていると、視線を感じてそちらの方に向いた。


監督はスーパー微笑んでいて、親指を立てたので・・・

微笑んで頭を下げた。


その隣のCGさんは、モニターとモニターの間から見えるけれど、CG背景画像の影像を見ている。横を向いてマウスを動かしながら、12個のモニターの中でどのカメラの角度の物が、背景に入るのかを確かめる様に、数々のカメラモニターをチラチラ視線を変えながらチェックしている。

横を向いたまま、大きな満月の裏側の影の中に・・・

今、京子が演技を続ける画を、金色のシャドーに変えながら、試しに何個も重ねているのが
離れたところからも見える・・ほど・・・





________ クレオパトラは見えなくなった愛しい人の姿を・・・

その人が向う先に目を向けたまま、ただ無表情に動く事無く見詰め続けていた。


クレオパトラの手が自然に動き出し、両手に抱いていた月桂樹の冠にキスをして上を見上げ

首に残された、愛された証であるキスマークに手を添えて・・・

その手に寄り添う様に頬を傾けて、見えなくなった愛しい人の向かう先を見詰め続けていた。
 





_____ 「 カット。 」



CGどぉ?と聞く監督に・・・ばっちりっすよ。と微笑んでいるCGさん。

セットから外れようと歩き出した京子の傍に寄り、最上さんお疲れ。と言って、彼女の頭を撫でセットから外れて歩き出した。
セットから外れた場所に二人で行くと、手に持っていた月桂樹の冠を手渡そうとしたけれど、
自分が少し屈んで顔を覗き込んで微笑むと、微笑み返して手を伸ばし頭に乗せ様としてくれるから、頭を下げて乗せてもらっていたら・・・耳元に囁かれる。


「 久遠っぽかったよ・・・」


その言葉に・・・なにが?とそのまま小声で耳元に聞きながら、
自分の手で冠を乗せ直し、冠から手を離したキョーコの手を握った。

キョーコも指を絡めて、一瞬だけぎゅっと力を入れて握り返されると・・・


「 シーツの中で・・・ 」


指の間からするっとキョーコの手が抜けて、肩をぺちっと叩かれた。
も~~ぉ・・・映ってないよね?と小声で言うから、映ってないといいけど・・・?


「 まっ。NG出されなかったら、映ってないって事だよ。 」


そんな風に、二人だけでスタジオ内のスタッフがざわめく端の方の、誰もいない所でゴソゴソ話していた。

いいんじゃない?取り直しでも?とウインクすると、ん~・・・部屋ですればいいんじゃない?との返しに、ごもっとも。と思うけれどねぇ・・・・・。


二人で監督の顔をその直後に見たのは言うまでも無い。


少し離れた場所から監督が大道具責任者と話し合っているのを、二人で見ていた。
話が終わったと見えて、大道具責任者は美術スタッフに向けて声を張り上げる。


_____ お~い。セット変えっぞ~。


うぃ~っす。と十何人かのスタッフが返事をするので、バタバタしだしたら・・・

二人で顔を見合わせて二人ともが、に~っと笑った。


その顔見た事ある。とキョーコに指を指して言うと、フッっと鼻から息が漏れて笑われる。


「 そう。 10歳の貴方です。 」


と、逆に指を指されて・・・

先生が人に指を指したら いけませんと仰ってましたよ。貴方の子供の頃からの癖ですか?

と聞かれ、少しムッとして・・・

じゃぁ、なんで指を指す。と言い返し、指していた手で その人差し指を掴もうとすると、
目の前でその人差し指をグルグル回されて掴めないまま・・・

・・・あっち向いてホイ。と指した先を、思わず見てしまった。



( 監督とCGさんに見られていたのか・・・)

二人がコチラを見て、ニタニタしていた。




「 敦賀君、京子さん。 」


その監督に続いて、CGさんが被せて言った。

_____ OKだよ。お疲れ。

親指を立てたCGさん。監督も同じ様に、親指を立てて・・・



「 こっちにするからね。 いいよね? 」


そう確認する監督に、二人で微笑み合い・・・

ありがとうございました。と二人で声を揃え、監督にお辞儀をした。




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Love Letter from RT and CH