恋愛も、仕事も、友達付き合いも完璧で理想の男 -第6話- 10:20pm

Posted by 美海 * mimi on 06.2014 DRAMA
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___________ 10:20PM





_____ あははっ。じゃぁ・・・


部長が会議室に入ってきてから、気さくな部長の笑い声が会議室に響いていた。



窓を背にこちらを向いて座っている部長。

部長の前に置かれているノートパソコンに、ブラインドからの日が差し込んでいるのか部長は斜めにPCを動かして、目の前に置かれている缶コーヒーを開け缶の淵を指でなぞりながら、ボードの前の俺達を見ていた。

こちらからでは、部長の表情は背中の光で影になって良く見えないでいた。

レイアウト・サンプルについての話はなく、部長が来てからは・・・

自分が引き出しから出したファイルの中・・・自分の今までしていたモデル兼エディット。
エディットとしての仕事としての、モデルのオーディションまたは、オファーを出すなどの要約や、モデルに出す契約条件や自分も受けサインした事のある規約の書類。

行動を起こす前に必ずする、サイン社会。アメリカではいつもそうだった。

それらの経験上からの規約書類サンプルを作り、他に必要事項を日本の場合、どう入れたらいいかの検討の話を出していた。


「 モデルねぇ・・・」


お前もしたら?と言う同僚だったけれど、ニューヨークの方の契約が残っている為、他では契約できない書類にサインをしている。


「 モデル事務所へのオファーであれば、そちらからも条件を必ず出されます。 」


その事に付いても必要であり、専属モデルの必要性があるかどうかも検討しなければならなかった。世界中でそれぞれの国の感性に合わせて発刊されている雑誌の為、モデルの検討はしっかりしなければ、他の国の編集部からのクレームもあるだろうと云う事で、服に関してはスタイリストやデザイナーとの意見も必要と・・・

来月の雑誌には、もうレイアウトをしてくれた記事を載せる事に決まっている。

その次の月から、撮影などの期間を含めると急がなければ成らない事ではあった。


_____ それじゃぁさ・・・
  それぞれ担当を決めて、それぞれ女の子の好みも違うことだし・・・


そう言い始めた部長。

もちろん・・・

後から来た部長が、サンプルに付いても・・・


_____ どれがいいかと言われたら、これかな・・・

と、指を差したサンプルも、誰も選ばなかったものだった。


テーブルの上には、並べてある6つのレイアウトサンプルの横に、丸めたセロテープを置いたままに成っていた。部長はそのセロテープを選んだサンプルを指した手で取り上げて、自分に用意された席につき、会議の間中、コロコロと手の中で転がしていた。

男ばかりの会議では、好みのタイプの女性の話も出たりしていたけれど、全て仕事の為。

・・・とは、それぞれ皆が心に思う それ言い訳だよなって事。


でも部長がGOを出したのだから、それに乗っ取ってしようと云う事で、それぞれの国別担当の女の子を一人ずつ選び、彼女達の女の子としての目線が俺達には必要なので自分の秘書として付けると云う事に成った。

もちろん、それぞれ・・・

得意な国別に分かれているのもあり、自分の担当の女の子は重ならない自信。


「 皆の好みはバラバラだし・・・」

「 皆好みが、違うしな・・・」


俺と同僚はこういった事は同じ時に重なるけれど、自分が秘書に付ける女の子が重なる事は無いと云う自信から、2人でテーブルを挟んだ向かい側同士、同時に出した手に気が付いて軽く拳を向け合っていた。


皆でその直後、合った一つの意見。


モデルは会社の中からは、絶対選ばない事にしよう。・・・で、男性・女性モデルオファーを出す時は、この6人が揃って検討すると云う事と、女の子はその時々の感情が入る事がある為、モデルの起用に関しては口外しない事にして会議はお開きに成った。

このオフィスに居る女の子達は自分にそれぞれ拘りと自信がある為、意見がぶつかり易いのではと云う事。それに・・・自信が在る事。

モデルを・・・なんて、言おうものならビュっと手を挙げて立候補しそう・・・

と云うのが皆の一致だった。なので、男も公平に無し。と云う事に成った。



_____ ガタッ


部長が席を立ちあがりPCを閉じると、じゃぁ担当秘書の報告は明日までに。と言い残し手に持っていた、丸めたセロテープをサンプルの横の元々あった場所に戻していた。

部長の秘書でもある俺達2人。

顔を見合わせて、ふっと笑った。


「 部長は、秘書に女の子の方がお好みですか? 」


俺がそう言うと、同僚も・・・


「 忙しい俺達2人の他に、電話対応などで・・・」


その言葉に被せる様に、続けた。


「 英語か、フランス語か、外国語が必要でしたら・・・」

「 好みの子を任命されては、如何ですか? 」


ドアの前で手をドアノブに伸ばしていた部長が、ん?と振り返ると、
あぁ、まぁ・・・と言葉を濁しつつ、コホンと手を当てて咳払いした。

その手に握っていた缶コーヒーをグビッと飲み干し・・・


_____ いや。 俺にはお前たち2人がいるから大丈夫だ。


ドアを開けて部長が出るのを、他の3人は頭を下げて見送っていた。

じゃ、ランチ行ってくる。と言い残した部長は、飲み干したコーヒーの空缶を俺に手渡すと・・・


_____ 頼んだぞ・・・


そう言うと、俺と同僚の肩を空いた手で軽くパンチして出て行った。


「・・・じゃぁ、早速? 」


そう言いながら、部長にパンチされた肩を摩っているコイツ。
な~にが、早速だか・・・と思いつつも傍に寄り、こそっと耳打ちした。


「 誰にするの? シャネルの子? それとも、彼女? 」


コイツは、パリとミラノ両方の上司である為、その中から選ぶと思っていた。


「 ん~~~・・・あのさ・・・」


PCに向かい、会議で出たサンプル規約に日本での必要事項を思いつくままタイプし始めた同僚は、なにやら言い難そうだった。


「 ねぇ、コイツのPC以外 片付けて、ランチにどうぞ。 」


あぁそれと・・・午後から動き出して。と追加しつつ微笑んで促すと、じゃぁサッサと行った行った~。と同僚もPCから目を離さずに言っていた。

彼らが・・・どうする?と話し合いながら出て行ったのは、自分の秘書をどうするか?なのか、それともランチをどうする?なのか・・・どちらでもいいけれど、部長に渡された空き缶と俺と同僚の空き缶をそれぞれが手に取って出て行った。


________ パタン。


その彼らを見送りドアがきちんと閉ったのを音で確認した。
彼らが開けたドアの向こうに消えるまで見ていたオフィスの中。

自分の仕事をこなす出来た部下たちが、それぞれのデスクや用事のある者は立ったりしていたけれど、誰も会議室の傍には居ない事を確認していた。

もちろん、上司である部長はそのままエレベーターのある廊下に出て行った事も確認済み。

社内恋愛・厳禁の会社で、コイツの話を聞かれたら・・・

コイツは居なくなるかもしれない。
それには、自分の頼りに成る相棒を失う事。自分にはかなりの痛手であった。


ドアが閉る直前に目が合ったのは・・・

ドアの付近のデスクの女の子。


ロジェ・ガレを着けている、“パリに住んでいた頃から” その言葉を残した子。
住んでいたのであれば、パリチームの中に必要なのかも知れないけれど・・・

どうして、コイツが彼女をチームに入れなかったのか?

それが、気にも成っていた。



「 ・・・んで? 誰? 」


テーブルに座って、コイツがPCに打ち続けるタイピングを見ながら、どこの部分の付け足しなのか自分の作ったサンプル規約ファイルのページを、コイツに合わせて捲っていた。

2人とも話していても仕事と話は別々に出来る事は、学生時代にレポートを仕上げながら女の子の話をしていて頃から変わらないまま。


「 ん~~・・・ロジェ・ガレの彼女。 」


ん?と思ったけれど、はっきりと答えたので彼女に決めていたと思えた。


「 あのさ・・・お前にだから言うけど・・・」


「 何を? 彼女チームの中に入ってないだろ? 」


うん・・・と言い返しつつタイプしているコイツの手元に、見やすいようにファイルを少しずらしながら、パラっと次のページを捲りどの部分か指を指してあげていた。


「 俺の元カノなんだよね。 」


「 ・・・。 」


・・・まぁ、その言葉には全く驚きはしない。
それほど、コイツはあちらこちら味見しているのだから・・・と思っていると、真面目な顔のまま。それにいつもと違って声のトーンも少し暗めだった。


「 なんか、あったの? 彼女と・・・」


「 一度さ・・・一緒に旅行でパリに行ったんだよ。その時・・・

  お前がアメリカに行った後、大学で同じフランス語を取ってて付き合いだした。
  俺はここに就職が決まってたんだけど、彼女は違う会社に入ってた。
  それで・・・2人とも初めてのボーナスで、パリに行ったんだけど・・・

  彼女さ・・・

  パリに住みたいって言い出して、フランス語に問題は無かったし、
  気にいったんならがんばれって楽しく旅行して帰国したんだよ。

  帰ってきて少し忙しくてさ・・・俺。仕事が新人の癖に山積みで残されて・・・」


「 うん・・・分かる。速攻戦力に成ったって部長言ってたし。 」


ファイルを捲る手を止め そのファイルを閉じると同時に、コイツもセーブをクリックして俺と部長のアドレスにメール添付で送ってくれたのを見ていた。


「 それでさ、1週間後。週末だったから電話して・・・

  どうする?って、聞きたかったんだけど・・・
  電話。繋がらなかったんだよね。
  連絡出来なかったから怒ってるのかと思って、何度も電話掛けて・・・
  それでも・・

     ・・・繋がらなかった。その週末。 」


_______ パチッ。


PCを閉じたらその上に両手を乗せて、まだ温かいPCの上に手の平を開いて乗せていた。
俺の顔を見ないまま俯いて目の前の物をじーっと見ながら話すのは、昔から変わらなかった。


「 ・・・それがさ、月曜日。仕事中・・・ 

  もう空港に居る。って・・・それだけ。 」


「 何?彼女すぐパリに行っちゃったの? 」


「 うんそう。彼女も思いついたら直ぐ行動できるし、なんでもできるし?

  それは、学生時代から知ってた。・・・そう、お前みたいって思った。
  お前がアメリカに行った時も、まぁ、男だし、何とも思ってなかったけどさ。 」



一点を見詰めたままで居た俯いていた同僚が、俺の顔を見て止まった。
その表情はいつもと少し違い、俺の知る学生時代とも少し違い、その真面目な表情に真剣に言っていると思っていた。


「 それさ・・・俺、人生で初めて何かに負けたんだよ。

  ・・・・・お前なら分かるよな。この意味・・・ 」


 
「 あぁ・・・」


そう返したのは本当に意味が解かり過ぎるほど、コイツの気持ちは手に取る様に解かってしまう。


「 初めて振られたとか、じゃないんだよな。彼女の大切なモノは・・・

  ・・・自分じゃなくて、彼女の選んだ自分の未来なんだろ?・・・」


「 そう・・・一言、たった一言相談してくれれば、もっと素直に見送れたのに・・・」


まっ、ただそれだけ。と拳を両手で作りテーブルをゴンと叩いて立ち上がったコイツ。


「 本気の恋愛にも・・・
  彼女の見ていた先に、俺が居なくていいって思われたってさ。 」


昔から負けん気の強い俺達は、何にも負けたくないと思う心が似ていた。
良き友達で、良きライバルで、コイツがなんでも出来る事ももちろん、努力の影に全部ある事も、こなすことが出来る才能や能力も・・・

大学を主席で卒業したコイツの話を、卒業の季節が違った俺のところに・・・
コイツの卒業は先に耳に入り、知っていた事だった。

彼女の未来像にも負けたくなかったコイツの敗北感は・・・


「 俺、振られたのも人生それだけ。 」


ぱしっと肩に手を乗せられて、何食べに行く?と微笑みながら聞いたコイツ。
ファイルと封筒を纏め手に取り、自分もドアの方に向きなおした。

同僚のドアに手を掛ける後姿を見ながら考えていた。

なんで、この会社に今、自分の部下として彼女が居るのか・・・それが気に成っていた。


「 じゃぁ、外回りって言って、ちょっと・・・
 誰も来ない所までランチに行こうか 」


ドアの方に向いているその背中に話しかけると、同僚は振り向きもせず・・・
うん。と微笑んで顔を少し揺らしただけで返事をした。その表情がどんなものなのか見えはしない。ただ聞いてしまった関係に・・・

コイツが、会議室のドアを開けると、目の前のデスクの彼女は・・・

ランチに行っているのか、席には居なかった。


遠く離れた自分のデスクには・・・
蒼いボトルの水が置かれていたのを見ると、ジャケットのポケットの中で電話が震えた。


ポケットから電話を取り出して画面を見ると、ダナ・キャランの香りの彼女からのメール着信だった。携帯に寄こしたメールは、プライベート・アドレスだったから・・・
彼女のメールのタイトルを見ただけで、ふっと微笑んでしまった。


ドン・・・


_____ すみません。


「 いや、ごめん。余所見してて・・・」


胸の中にぶつかって来たその子から、ロジェ・ガレの香りがふわっとした。
彼女も手にタブレットを持ったままタイプしていたのか、余所見してた様だった。

俺の胸の中で すうっと大きく息を吸ったロジェ・ガレの香りの子。

ぼそっと自分の胸の中で一言だけ言ったから・・・

その耳元に顔を寄せて返事をしてあげた。


「 ・・・・・、
   じゃぁね・・・いい事、あるよ・・・ 」


耳元からすっと顔を離すと、ごめんね。と言い残し自分の席にすっと行った。
横にいたコイツには・・・
その彼女は、お辞儀をして見送っていた。

それが、俺には・・・顔を見られたくなかったのかと、自分とのやり取りに思っていた。


デスクに置かれたお水のボトルを、バキっと開けて飲みながらクローズしていたPCにパスワードを入れた。居ない間にもメールが来る午前中。アメリカの時間は夕方だから午前中は海外との交流にだいたい忙しい時間。

社用のアドレスに送られて来ている全てのメールの差出人とタイトルだけを確認すると・・・

ダナ・キャランの彼女から、自分のプライベート・アドレスに送られたメールと同じタイトルのものがあった。

思わず、スマフォもPCも2つとも同時に開いていた。


(・・・そっか。そう云う意味ね・・・)

PCにもう一度パスワードを掛け、タブレット画面をクローズしながら片手で部長宛に、
外に行ってます。とメモを書いた。

横のデスクでも同じ様にPCをクローズして、部長宛のメモに横から手を伸ばし自分の名前を入れてきた同僚。


________ バキッ


その音にふと気が付いて横を見ると、アタッシュ・ケースにタブレットとレイアウト・サンプルの入った封筒を入れながら、ペット・ボトルを開けてゴクゴク飲んでいる。

そのブルーのボトルは、コイツが飲んでいるのを見た事は今まで無かった。


「 さっ。行こう。 」


キャップを閉めながらそう言ったコイツは、微笑んで俺を見たけれど・・・

デスクに置いたアタッシュ・ケースを取り上げようと視線を移した時、一度目を瞑って
フー・・・と短い溜息を付いていた。


その溜息を付いた横顔に、自分が今飲んでいる途中のキンキンに冷えたお水のボトルをピタッと付けて・・・


「 どこ行く? お勧めは? 」


そう聞いた俺に、コイツは、冷たい。と言ってボトルを奪うと、俺と自分の顔の間、目の前でボトルを見せる様に振っている・・・


「 んじゃ、これ。捨ててもいいんだな。 」


と、にーっと笑った。その顔に向けて・・・

ファイルや封筒と一緒に持ってきた、丸めたセロテープをピシッと指で弾いて軽くおでこに当ててやり、返せ。とボトルを奪い返した。


「 おい、離れられなくなったって・・・この意味?・・・」

「 あぁ、そうだよ。・・・じゃ行こう。 」


二人揃って廊下の方に向かった。



明るいオフィスの中には殆んどの社員がランチに行ってしまって、ただそこら中のPCから

ポーン・・・
シャラーン・・・
You’ve got mail
ピ、ピッ・・・

それぞれの好きな音で、着信されるサウンドが幾つも聞こえていた。





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Love Letter from RT and CH