To be my Grace - XXX * One More Love . . . at Last . II

Posted by 美海 * mimi on 23.2014 To be my Grace
.


旅行中はずっと誰からも、久遠。Chuehone。 と、呼ばれていたあの時が・・・

日本に帰ってきて今まで通りに忙しい生活をしていたら、自分の中で、
久遠ヒズリの方が、敦賀蓮の幻の様に変わって行きそうだった。

この子が自分を、Daddyと言った事も、彼女をMommyと呼んだのも、クーとジュリが、俺達が居ない間に教えていたんだと考えていた。

姿が変わっても自分の事をきちんと分かるのは、肌に触れる感触と匂いなのか、
それとも髪と瞳の色が違う事をまだ分からないのか、それとも・・・

心が同じ人だと感じてくれているのかは、大きくなったら聞いてみようと、言葉を覚え始めた子にいつ話してくれるのかを、楽しみにしたいと思っていた。




「 蓮・・・」


横を並んで歩いているキョーコに呼ばれて、どうした?と手を繋いだ。
碁石の様な綺麗な玉砂利に、並んで歩ける細長い飛び石が続く不破の自宅、京都老舗旅館の道を歩いていた。

不破は自分たちの前を歩いていたけれど、不破もキョーコも・・・

上京してから初めてこの道を歩いている、今の2人の想いは・・・

LAに帰った空港からの迎えの車の中での、自分の気持ちと同じなのだろうと思っている。


その気持ちが分かるから・・・


ぎゅっと握る事無いキョーコの手を、指を絡めて繋ぎ直した。




玄関には、仲居さん達が立っていた。


「 いらっしゃいませ。 」


声を揃えて頭を下げるその姿に、不破もキョーコもビクッと止まっていた。
不破の家では、彼らは此処の家族では無いと言いたいのだろうか・・・

自分の両親と違う対応に、戸惑っていた自分。

でも、仲居さん達が頭を下げていたその向こう側に、頭を上げた人がいた。



「 お帰り。松(しょう)、キョーコちゃんも・・・」


1人だけ色も素材も違う着物姿のその方が、ここの女将で不破の母親だと気付くのに時間は掛からなかった。


「 敦賀様、ようこそいらっしゃいました。 」


お客を迎える営業スマイル。

それは自分達もテレビカメラの前でする、本当の笑みでないという事は、悲しくても笑わなければ成らない仕事を持つ、自分達にとてもよく分かるもので・・・
自分は、キョーコの育ての母親に、迎え入れられたのは お客としてなのだと思っていた。


でも直ぐに・・・・



「 さ、初めまして。私の娘の旦那さん。
 これからは、お帰りなさいになるからね。 」


その言葉と共に自分に向けてくれた笑顔は、自分を迎え入れてくれた心からの笑顔だと、自分も心から感じていた。


娘・・・


キョーコにとって憚りだった、母親という言葉。
母に成った彼女が、2人の母親に迎え入れられるこの日まで・・・
お腹に居た頃の自分の子供に毎日語り愛を注ぎ続けている間中、自分を捨てた母親をどんな想いでと嘆いていた事かと、蒼い石を握っていた事を自分は知らないわけではなかった。
まだ結婚できるかどうかも分からなかった頃、特に一人悩んでいた事だろう・・・そう胸が苦しくなっていた事もあったけれど、女将さんの笑顔を見て彼女にも本当にお帰りと言ってくれている事は、子供の頃から変わらない女将さんの笑顔に感じているのだろう。


自分もここに来た事が一度だけあった。


日本に初めて来た場所。

クーと・・・ジュリと・・・

久遠として ここに泊まった事があるのは、キョーコにも言わなかった。

車を降りて後ろを開け様と思ったけれど、玉石砂利の飛び石で遊んだ思い出が蘇り、ストローラーを押せない事に気が付いて止めていた。


「 こちらがいいかと思ってね・・・」


通されたのは、旅館正面玄関から横に続く飛び石の方。
十数個の飛び石の先に、植木で向こうが隠されている竹で編まれた枝折戸の門がある。

さぁ、どうぞ。

開けられた向こう側に広がった竹林の通り道。
風が心地よく竹の葉を揺らす音と共に・・・


________ カツ・カツ・カツ・・・


一歩一歩前を歩く不破の足音に・・・

緑の香りの空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
蘇る自分の思い出は、この道を歩いた事。

ここに初めて来た時、前を歩くクーの後ろで竹の音も足音も覚えていた自分。
初めての違う文化の光景に、ずっとドキドキしていた。

幼い日のキョーコとの思い出をも、緑の香りが脳裏に蘇らせて、心がどんどん一杯に成っていくこの今・・・

この道を歩いていた時は、まだキョーコちゃんと出遭う前で、クーとジュリと案内の人以外誰も他には居ない空間に、初めてメイドもSPも居ない自由と家族だけという想いで胸が期待で一杯だった、あの時。


竹林を抜けると・・・・


やっぱり、そうだ・・・


辿り着いた目の前に、あの時泊まった離れの特別貴賓館があった。

そう、ここに来た。

その光景が全く変わらないままで、ここに居る誰にもこの気持ちを伝える事無く、目を瞑り微笑んでいた。

立ち止まった不破が、鍵を開ける母親と話している声が聞こえていた。


「 おっ! 俺もこの部屋には、
今まで一度も入れてもらえなかったな。そーいや。 」

「 そりゃそうだよ。大切なお客様だけの部屋に、
 うるさい子を入れるわけに行かないからね。 」


ガチャガチャ開ける鍵の音も、そのドアの引き戸にも、自分には今まで経験した事が無かったあの時。鍵を開ける。なんて自分でした事がなかった自分。
誰か必ず自分の側についていて、ドアまで開けられる生活だったから、初めての鍵を自分が開けたいと仲居さんの側に駆け寄って、英語で言っても通じなかった思い出。

いつの間にかキョーコの手を、ぎゅっと握り締めていた。


「 だって、松。あんたさ・・・ 」


鍵を開けてがらっという音共に開けられた引き戸。


「 どうぞ、入って。 あぁ、ダメダメ、敦賀さんが先。 」


その言葉にふと目を開けて、さぁさ敦賀さんが一番先にどうぞと手を中に差し出された。
芸能界でも上の方だしね。とニコッと微笑まれた。


「 なんで、ここ? 」


不破の質問には、不破の母親は彼を認めていたと感じていた。


「 あはは、だってさ・・・松、あんた・・・
  ずいぶん有名になったもんだよ。
あんたと、キョーコちゃん。それに、敦賀さん。
この3人が、本館の中に居るのを見られたら、パニックになるだろ。 
それにここは、あんたの実家と知られたくないだろ?お前だって。 」


・・・だから誰にも見つからない所。



そうだった・・・

クーもジュリもお忍びで遊びに来ていたあの時に、この離れの場所でのんびりしたいと言っていた事を思い出していた。

不破もさっき自分で言っていた、自分の実家だと知られたくないと。

母親は彼の栄光を認めていて、いつも不破が安心して帰って来れるように、表に出さずに隠してきていたのだと・・・


“ いつでも安心して帰っておいで。 ”


母親のこの心配りは、実家へいつでも迎え入れる気でいたのだと思っていた。




中に入ると思い出す。

そう、やっぱりこの部屋だったって・・・



玄関の直ぐ先の待合室のような小あがりに、樹齢1000年ぐらいの大きな切り株を彫った囲炉裏には炭が入れてあって・・・

その火のない暖炉に おおっ!と驚いてジュリに、Look Mom見て!と言っていた・・・

その先のふすまの向こう側


________ ガラッ


「 どうぞ・・・」


不破の母親が開けてくれた ふすまの向こう側に、不破のお父さんが居た。


「 いらっしゃい。 」


座布団が置かれているにも関わらず、自宅という事で畳に正座していた彼のお父さん。
自分には、どうぞ。と手を差し出した床の間前の上座。

そこに掛かる掛け軸も、今なら読める。

“ 鶴宿千年松 ”

その意味も今なら分かる、とても綺麗な言葉だと思っていた。
あの時は、単なるニューヨークのMOMAにでもあるような、前衛アーティストの物かと、へら~っと書かれた筆文字に、なんの絵なのかと頭をハテナで一杯にして、考えた記憶。

日本の映画の殿様のような座布団に、クッションが下に置いてあると頭を捻り、肘掛に座布団を乗せて座っていた自分も思い出す。



「 そしてお帰り。 」


たくさんのここでの記憶を、自分が思い出していた事が分かられたのかと思い、はっとその言葉に止まった。


「 ただいま。 なんだよ、おやじ~~ 」


後ろから来た不破とキョーコに言っていたのかと、自分が此処に来た時は、クーの息子の久遠ヒズリだったから正体がばれたのかと思っていた。
でも・・・


「 じゃぁ、敦賀さんにもおかえり。
と・・・次から言うよ。いいね。 」


不破お父さんのその言葉は、続いていて・・・


「 そうそう、うちの息子は2人とも
  ビッグ・スターだな。鼻が高いぞ。 」


キョーコちゃん、いいところにお嫁に行ったね~。と不破のお父さんは、久しぶりに会うキョーコにも、不破にも微笑みかけていた。

おぉ、孫も抱かせてくれ~。と言うも、ダメよ。寝てんだから。とお父さんの出した手をぺちっと叩く不破のお母さん。



そうか、孫か・・・


血のつながりの無い子でもそう思ってくれるのだから、キョーコはここの娘として見ていてくれていたと感じていた。



「 お前がな、テレビで歌っている時
 間違えないかいつも、ドキドキしてみてるよ。 」


そのお父さんの言葉に、はぁ?オレが間違うワケないじゃん。と返す不破に・・・


「 キョーコちゃんの方も同じだよ。 」


親が子供の事を見る目とは誰もが同じだと知ったのと、キョーコの事にも心臓がドキドキするくらいテレビの前で親心があるのだと感じて嬉しかった。


上座を外し入った直ぐ横の畳の上に正座し、その横にキョーコも座ると、3人がくっつく様に不破も座った。


「 ただいま、親父。 
長い間連絡もしないで悪かったと思ってる。 」


不破の言葉には本心が込められていたのだろう。短いその言葉だけでも両親には・・・


「 おっ、そんな事言える様に、成長したのか。
 まぁ、競争の激しい仕事だ。
そのぐらい言える様に揉まれないとな。お前はダメだ。 」


その言葉にほっとしたのか急に足をくずして、はぁ~と言っていた不破。


キョーコに子供を抱いてもらうと、不破の様に両手を畳に付いた。

私も。と小声で聞こえ、不破に赤ちゃんを渡そうとしたが、キョーコは一瞬躊躇っていて、
不破もとっさに両手広げて出したけれど、差し出した手の平を閉じ顔をキョーコから背けた。

それに不破の両親は直ぐに気が付いて・・・



「 そうか、松。お前。自分がここに来る時は、こうして・・・
キョーコちゃんと夫婦になって帰ってくるつもりだったんだろ? 」



違うか・・・?



その言葉にプイっとそっぽを向き、足を投げ出した不破。
母親は、その不破に・・・


「 うちもな、キョーコちゃんがお嫁に来て、
 本当の娘として来て欲しいと思っていたけどな・・・
 でも、松が自分で出て行って、
テレビでアンタの活躍を見るようになって、それからは・・・

 この家を継いで旦那と女将をするかと言ってもな
 
 もう、戻れないところまで、活躍しているから無理だと諦めた。
 それでも、もしもキョーコちゃんと帰ってくる時が来たら・・・
 ・・・いいかも。それぐらいに自分の期待をしない様にしていたよ。 」



不破の両親は息が合う様に、不破に話し出していた。



まぁ、何はともあれ、仕方の無い事。人の心が変わるのは・・・

松。お前も、此処を出た時の夢を抱いた自分を思い出してみい。
危ないつり橋を渡ろうとする歌手か、
安心して渡れる鉄骨の橋の若旦那か・・・

そうそう、両天秤にかけた時、自分が選んだのは、危ない橋。
先の見えないその橋を、渡ろうと思い、家を出た時な。

子供の頃から家を継ぐ気で勉強なんてしなかった、お前の心が変わった時だろ。
家を継ぐという子供の頃からのものが、変わった時なんだよ。

だから・・・お前にここを継ぐ気はないと思った時
キョーコちゃんの活躍もテレビで見る様になってな。


そう。もうこの2人は、ここの女将と旦那にはならないと諦めて、
それからは・・・

自分の子供達がただ幸せに成ってくれればいいと思っていただけだ。



何も言い返さない不破だったけれど、その彼らの言葉に、ソッポを向いて見えないけれど

言葉を返せない不破の心が分かるのは・・・

本当に心の中に感じている、言葉に出来ない感情がある事は自分も分かるから・・・

両親の自分がもしかしてと淡い期待をしてきた、自分を認めてもらう事。

その思っていた期待よりも、もっと優しく受け入れてもらえた事にきっと不破は・・・

言葉に出来ない喜びが心の中に溢れているのだと思っていた。



「 さ、松。お前は自分の出てったままの部屋。
  片付けてから帰りなさい。
  それからな、キョーコちゃんが傍にもう居ないからと思って
  朝ごはん、それから、お弁当あるから。板場に寄って貰ってきな。 」


  
父親の最後の言葉に、不破の部屋も出て行ったそのまま残されていたんだと思っていた。
自分の部屋に帰って、泣いてもいいぞ。とは・・・

きっと親にしか分からないのだろう。


今までの不破の辛かった事も大変だった事も、全てここに置いて

新しい気持ちでもう一度帰ればいい。

そしてその涙の思い出が、また心が苦しくなったら帰ってくればいいと思い出させてくれる様にと・・・

いつでもここに帰って来いと、温かく迎えてくれている・・・



・・・そう感じていた。




「 さ、敦賀さん。堅苦しい挨拶は要らないよ。どうか朝の一服でも召し上がって・・・
 心ばかりのお祝いを、自分の息子に成ったお祝いを娘と一緒にして貰えませんか・・・」


その貴賓室には、専用の茶室があることを知っていた。
子供の頃にもその茶室で、見た事のないお菓子に、ま緑のカプチーノを見て驚いていた自分。


あの味は、自分が口にした苦い物の中でも人生今までトップ3に入る思い出かも。
グビッと一気に飲んで驚くほど苦かった、抹茶。

アメリカのお菓子のような色に、甘いと思って飲んだから・・・

なおさら驚いていた思い出。


初めて自分が作ったオムライス。タバコ。そしてこの抹茶・・この3つかも・・・・


マウイオムライスは2度目の時、キョーコの魔法が掛かっていたから尚更

これを制したら、二度と自分への RELUCKは、離れる事が無いとも思っていた。

Infinityの魔法が永遠に、RELUCK を呼んでくれます様にと願いを込めて・・・・



不破の母親はこの茶室で2人の為に、三々九度の代わりの濃茶を点ててくれると言ってくれた。


「 濃茶はな、敦賀さん。キョーコちゃんは知ってるわよね。
三々九度と同じで、1つのお茶碗を3口ずつ2人で分け合って飲む物。
お2人の未来をここで、どうか私達の育てた娘。キョーコへの・・・
心ばかりのお祝いとして、朝の懐石と共に受け取って下さいまし。 」


不破の両親は気を利かせて先に立ち上がった。
さぁさぁ、急がないと皆さんお仕事の忙しい方ばかり。キョーコちゃんのお母さんにも、これから逢うんやろ?そう急かされて、立ち上がった。


「 あぁ、松。 」


立ち上がった不破に、裏から入って行け、旅館に絶対顔を出すな。と朝ごはん前の忙しく人の出入りの激しいのを気にしていた。


「 あんたにも、薄茶を点ててやるから・・・
 そんな眠そうな顔をしたまま仕事に行ったら承知しないよ。
 テレビ局に入る前に、シャキッと、敦賀さんみたいないい男にしてやる。
敦賀さんとキョーコちゃんが帰った後、もう一度ここに来なさい。
 始めから最後まで、きちんと正座してな。 」


正座という言葉に、ビクッとしていた不破は、確かにずっと胡坐をかいていた。
両親の前には、硬い遠慮なんて・・・要らないのかもしれない。

我が子の気持ちなんて、こうして命が始まった瞬間から、心で何かを感じ取れるほど、言葉を覚える前から、何をしたいのかなんて解るように成った自分には、その両親の気持ちを心の中に感じていた。

ま、自分の家だしな。とは、両親の前で気の緩む子供としての甘えた気持ちが出るほど、心にあった憚りが無くなって、これを切欠にここにまた帰ってこれるという心の支えに成って欲しいと・・・そう思っていた。


自分が不安に感じる程考えていた事なんてなくて、自分たちそれぞれの両親は、身勝手な事に怒るよりも、自分の事を心配してくれる気持ちの方が勝っていると、自分が親に成って少しだけ解る様になって・・・それに・・・

クーもジュリも、そうだった・・・

自分の部屋に行って来いと、まず、遣り残した事を自分の手と意志で片付けてから、もう一度出て行けばいい。その両親からの気持ちは、自分の中で新しく何かを生み出してくれた事。

もう一度・・・って、思ってて・・・

またいつでも帰ってきていいって・・・

何度でもやり直す切欠になればいいって・・・

それが、心の中に浮かぶ新しく始める事への恐怖を、柔らかく包んでくれる支えに成った。

もうこの気持ちを知れただけで、自分には十分親の子供に対する愛の大きさと深さを、感じ取って帰って来た。


キョーコは自分のお母さんにも、そして育ての親にも、邪魔な要らない子だと思ってここまで生きてきたけれど、娘と育ての親に言われたことに何か心が救われたのだろうと、静かな安らかな笑みに感じ取れただけで、自分はとても嬉しくなっていた。

少し離れた茶室への廊下を歩きながら話し出したのは、お忙しい時間にどうぞ気を使わないで下さい。と朝早かったことを詫びていた。


「 何を言うとる。敦賀さん。 」


「 我々が居なくても、旅館はきちんと従業員がしてくれる。
  その事を知っていると思っていたわ。 」
  

はい?と少し解る様で判らないその意味。続けて女将が言い出した。


「 貴方は、キョーコちゃんと松の性格を知ってるんやろ? 」


はぁ・・・お2人とも気性の激しいほど、何かに集中すると止め処なく、それはもう・・・そんな事をブツクサ独り言のように言っていると・・・


「 そうや。この子達を育てたのは、私達。
  従業員だって皆、こんな風に責任感と最後までやり遂げる気合は
  誰にも負けない様にと、教えているつもりだから・・・」


あははは~、だから大丈夫。と笑っていた。その例えが自分にとっても身に沁みるほど判ってしまうので、ウン・ウンと頷いていた。

そうそう、と話し出した女将さん。結婚は何時ぐらいに本当はしていたのか?と下世話な様で悪いがとも付け足され聞かれていた。


「 出産の時です。キョーコが母親に内密にと取り計らってくれましたので・・・」

「 そうかそうか、キョーコちゃんのお母さんは、弁護士や。
きっと上手くしてくれはったと思うわ。 」



はい、それはもう・・・

スパイの秘密文書のように・・・

と小声で言った自分。自分がアメリカ人である秘密もしっかり守ってくれていると、キョーコがそっと握ってくれた手の意味に、彼女のお母さんに感謝する。

映画の公開まで言っては成らないと契約していたので、誰にも言う事を禁じられていました。すみません。と謝っていた。
それにはテレビを見て、あぁそうかと知った時の気持ちを話してくれた。


「 それは仕方の無い事。いいな敦賀さん・・・
 私らかて、家を出て行った息子の応援をずっとしております。
 あの子が活躍する芸能界のなんぼは、分かっているつもりです。
 松がここが不破尚の実家だと決して言わない事も、
うちらに連絡もしてこないのも・・・淋しくても・・・
 ここの商売にも、あの子にも、お互い必要な事と考える様に成りました。 」



だからそんな事は仕方の無い事・・・

気にするな・・・



不破のお父さんは何も言わなかったけれど、ポンと肩を叩いてくた時の向けてくれた笑顔の中にその意味が込められていると感じていた。


「 こうして忙しい中、皆揃って来てくれただけで・・・」

「 そう、それだけで・・・」




・・・嬉しかったよ・・・・



ありがとう・・・





茶室に通されて、頭の中に ひゅっと戻ってきた光景。

客用に座布団が既に置かれていた。


3枚横に並べられている。


「 キョーコちゃんは、正客を・・・」

「 いえ、女将さ・・ん・・」


キョーコが上座に自分が座る事を断っていると、女将さんはその言葉を遮った。


「 キョーコ、何を言っておる。

ま、ええか。そうや普段は男の方が上座に座るもの。
  でもな、この点前はこの家の娘が・・・
 
  この家を旅立って・・・お・・嫁に・行・・く・・・ 」

  
女将さんは、涙を堪えているのか、詰まりながらの言葉に一度目を瞑り、すぅっと息を鼻で音も無く吸い、ごくっと飲み込んだ。


「 お母さんと・・これからは呼びなさい。 」
  

えっ・・・と止まったキョーコに被せる様に話し出した。


「 ええな。私の育てた娘がお嫁に行くんや。
 どこに出しても全く恥ずかしくない、いい子や。
 花嫁が上座に座るもの・・・

 それに・・・
 貴方の旦那さん。ここの息子となった人に・・・

 貴方の先に飲んだ半分の心を、受け取ってもらいなさい。 
 

さぁさ、蹲で手を清めて・・・
いや、違うかな?ふふ、誰でも親が言う事や・・・

ご飯の前は、きちんと手を洗ってきなさい。 」



そういや、あの子に言うの忘れとったわ、お父さん。そうだな、松が片付けながらと思って、おにぎりにしてくれと言っといたけどな・・・

2人のブツブツ話し出した会話から、この夫婦も、子供の事はなんでも分かっているんだな。と思うのと、不破もキョーコも今まで何も連絡しなくても、この二人の心の中にはいつも自分の息子と娘を想う存在があった事が、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。


茶室に戻ると、水屋に下がった不破のお父さんとお母さんは居なかった。
そこに並べられた座布団を見ると思い出す。


“ レディファースト ”


クーがそう言ってジュリの手を取り、上座に座らせていた事も、クーとジュリの間に自分が座った事も・・・

キョーコと間を挟んで、子供を真ん中の座布団に寝かせても、ここに来る後半から寝だした子は起きる事無く泣き疲れていた。

不破と不破の両親と話していても、起きそうだった何度かに、ポンポンと背中を叩くと胸に寄り添って寝始めていた。相変わらずネクタイは握りっぱなしで・・・

そう思った時、はっ!と気付いた事があった。


( しまった。キョーコに子供を渡してからも、ネクタイ緩めっぱなしで畳に手を付いてた!)

下さい。ならぬ、結婚しました。貰いました。の大事な挨拶に・・・
気を取られ過ぎて、忘れてた・・・。


ナントモ・・・・不覚。


大事な時に、ユルユルな態度だと思われたに違いない。そう思い出し急にあわてて開けていたシャツのボタンを閉め、ネクタイを結び直した。

朝の茶懐石はお腹に優しく、なるほど~、これがキョーコにとってママの味なんだな。と思いながら堪能させてもらっていた。

キョーコが懐石盆に箸をカタッと落として音を立てたので、自分も真似して置いてみた。


「 それでは、お濃茶をただ今から・・・」


点前座後部の亭主勝手口と呼ばれるふすまが、ス、ス、と開き女将さんが頭を下げていた。

子供の頃は、先の人が下がった障子戸の方しか見ていなくて、反対側のこのふすまから忍者の様にゴーストの様に登場した女将さんに えらくドキッとしたと思い出し、微笑んでいた。

今までは懐石を務めていたの旦那であるお父さんで、点前を務める女将のお母さんは初めての登場で、2人並んだ姿を見て微笑みながら何かを思い出している様だった。


「 キョーコちゃん。 」


はい?と首を傾げながら返事を返すキョーコに女将さんは続けて言った。


「 前にな・・一度だけ、上座に奥様を座らせた
ご夫婦が居たのを思い出しただけ・・・

貴方がまだ子供だった、10年以上前の話。
ここに、外国人のご夫婦が宿泊されてて
男の子を真ん中に座らせていたけど・・・

レディファーストっておっしゃって

奥様を上座に座らせていたのを思い出してね。 」


ふふっと笑いながら、そうかそうか、まだまだお給仕はして無い頃だわ。と独り言の様に話していた。


「 ウェディング・ケーキには全く至りませんが、
心ばかりのお祝いの重菓子を作りましたので
どうぞ・・・濃茶と共に・・・受け取って下さい。 」


こうして、お菓子を頂きお茶を頂き始めようと女将自らの点前中・・・


_____ うぅぅ・・・ふぁふぁ・・

キョーコとの間の子供が起き出してきてしまい、目を開けたらヤバイ。のと、静かにしなさいと言われているかの様な、掛け軸の文字。


“ 和敬静寂 ”

和敬 その心に和み敬いなさい 静寂 心静かなる時を共に


二つに分かれるこの言葉の意味に、和む事と寂しさは、相対する意味で日本の言葉とは、とても綺麗なものだと思う心が、大人に成った今なら感じられる。

女将の点前からは目を離さずに、子供の頭をキョーコと2人で撫でていた。

子供は自分の方に転がってきて、正座して少し高くなっている太ももに頭を乗せる様、自分で起き上がり、太ももの上に頭と両手を乗せると落ち着いたのか、ふぅ~ん~・・・と、息を吐いてまた眠り出した。


( おぉっ! 自分で起きた ! )

驚いてキョーコに口パクで、起きた起き上がった!ちょっとハイハイした!と指を差して話しかけると、うんうんうんうん。と顔を縦に振っていた。


「 まま・・・」


( ん?あれ? ダディだけど? )

俺が背中を撫でてネムネムを促していたのに喋っていた事に、納得いかない。
そんな顔をしていたのか、キョーコが小刻みに揺れ、笑いを堪えているのが分かる。

茶碗を差し出した女将は赤ちゃんが移動しているのに気が付いて、声を出してはならない濃茶でも話し始めた。


「 あら~! パパが大好きなのね。 」


畳をにじりながら茶碗を受け取りに向かったキョーコは、女将の前に来ると女将のその言葉に静かに微笑んで言った。


「 はい。私の遺伝子を受け継いでいますので。 」


にこっと微笑んで茶碗を持って下がるキョーコに、女将は・・・


「 そうやな。敦賀さんの事を好きなんは、同じ想いやな。 」



・・・はい。


その返答は不破の母親という事も有り、飲んだ言葉なのだろう。
返事の変わりに、茶碗を二人の間に置き女将に頭を下げたキョーコには、不破への愛は感じない代わりに、不破と不破の両親に対する家族愛は、あるのだとそれに感じていた。



お茶を頂き茶室を立とうとし子供を抱き上げた。

胸の中でもう一度微かに聞こえた・・・


「 Daddy ・・・ 」


あまりに愛しくて愛しくて幸せで、頭にちゅっとキスをすると、それを見ていた不破のお母さんが、先に廊下へと促しながら、先に出たキョーコにこそっと言っていた。


「 ふふ。キョーコちゃん、幸せもんやな。 うちの松では、こうはいかん。よかった。
 幸せにこれからも過ごして、それに・・・テレビに戻ったらの活躍も見ていますよ。 」


「 ありがとうございます。 」


そうキョーコは女将と微笑み合っていたけれど・・・


( う~ん、俺も見る。って事だよな・・・。)

そんな事を思ったのには、わけがある。今日はこれからのドラマ撮影では・・ベッドシーンがあった。と自分の撮影スケジュールを頭に思い浮かべていた。

なんだか、見られたくない。

そんな気持ちで溢れてしまう、ドラマもこれから選ぼうかとも思えど、回ってくる役は真剣なラブストーリーが多い俺。結婚してからというもの、新しいオファーがたくさん来たのはいい事だけど、結婚までの道のりの様な物凄く真剣な愛の演技を期待されている様なものばかりだった。

クーが保津周平を辞めてアクションに転向したいと変わった事にも、ジュリを愛しているから恋愛モノは避けたいと思う気持ちがとてもよく分かる様に成っていた。


最後に玄関の所で不破の両親に見送られていた。最後に不破に逢う事は無かったけれど、不破は?と聞くと、ま~だ片付け終わらないみたい。まぁ、あれだけ散らかしっぱなしだったら、時間が掛かるのは仕方ない事よ。とのお母さんの言葉にお父さんが入って来た。


「 結婚式はもうしたのかね? 」


ええとぉ~・・・と言いかけ・・・
それでも、していないものは確実に言えると思い、言葉を変えた。


「 披露宴はまだ何も・・・」


そうか・・・とお互い顔を見合って頷くご両親。不破のお父さんは続けて言い出した。


「 その時は、呼んで下さいね。 」

「 はい。もちろんです。 」


微笑みながら返事をして、子供を反対の肩に抱き移し頭を撫でていると、その姿を見たためか不破のお父さんは静かに話し出した。
 

「 言っていいのか、わるいのか。告げ口みたいだけど・・・」


その言葉を前置きにお父さんは、点前中に不破の部屋に行ったらしい事を話し始めた。


「 最初はな。松。どうだ?と片付けを気にしていたんだが・・・
  アイツ。綺麗に成った部屋で子供の頃のアルバムを見ていた。

  影で少し見ていたのは、捨てるのかと思い始めたんだけど
  溜息を付いてアルバムを閉じたんだよ。
キョーコちゃんとの思い出がここにはたくさんあるからな。
  
  だから声を掛けた。親父として同じ気持ちがな。分かる様で・・・

  そしたら松のやつ・・・

  好きなのかどうかはよく分からない。って言ったんだ。
  別に泣いちゃ無かったんだが、腕を組んで目を瞑ってて

  ただ1つ、どうしてもどうしても松の気持ちが分かる事があってな。
  敦賀さんに伝えたいと思ったんだ・・・ 」
  

不破のお父さんは竹林の方に目を向けていた。 ___________





.
At . . . LAST STILL CONTINUED



One More Love . . . at Last . III

Love Letter from RT and CH